■年数回は実例共有を図る
全国にドラッグストア・調剤事業を展開する㈱ココカラファイン(神奈川県横浜市、塚本厚志代表取締役社長、約1万2000人)では、ハラスメント対策として社内外に合計3つの相談窓口を設置している。業務上の要望や不満なども含めて幅広く受け付ける。対策のキーパーソンは店長を束ねる「統括店長」とみて、手厚く指導を行う。新任研修では時間を設けて教育を行うほか、年に数回の頻度で社内の実事例の共有を図る。統括店長の年齢層は30~50歳代と幅広いため、コミュニケーション上の世代間ギャップの発生も防ごうとしている。
■人事異動発令し当事者離す例も
同社は、セガミメディクス㈱と㈱セイジョーの経営統合により2008年に誕生した。13年には、子会社6社を統合し、コア事業会社として㈱ココカラファイン ヘルスケアを設立している。現在は、日本全国の8割以上の都道府県に1300店を超えるドラックストアや調剤薬局を展開。パートタイマー、アルバイトを含め、従業員は約1万2000人に上る。
人事の方針として、「多様な働き方をする多様な人材の活躍を支援する、魅力的な職場づくりをめざす」を掲げ、ハラスメント対策に力を入れる。管理本部人事部労務チームの中島文浩マネジャーは、「従業員も多く、メーカーや問屋など取引先も多岐にわたる。すべてのステークホルダーに対してハラスメントは絶対に許されないというのが基本姿勢」と話す。
事業会社を統合した13年には、「ハラスメント防止規程」を策定した。グループ内の全法人・全従業員に適用するものとして、セクハラ、パワハラ、マタハラなどあらゆるハラスメントの撲滅を明文化している。
具体的な取組みの1つが、相談窓口の充実だ。現在、社内外含めて3つの相談窓口を設置している。社内に設けた「従業員(ES)相談窓口=別表」では、匿名対応はしていないが、ハラスメントに限らず要望や不満など何でも相談可能としている。直属の上長にはいいにくい、上司に訴えても動いてくれない、とにかく問題が起きていると知ってほしい――など、様ざまな訴えが集まる。

通報の内容は、該当するエリアの地区長に伝達する。地区長とは、店長の上司に当たる統括店長のさらに上の職層だ。調査・対応は地区長が責任を持ち、場合によっては本人に会いに行って直接ヒアリングする。
外部の専門業者に委託する形で運用している「リスクホットライン」では、匿名での通報が可能だ。受け付けた通報は、内部監査室にのみ内容を共有する。内部監査室は独自に調査を行い、本人の承諾なしに内容を開示することはない。具体的に人事部の見解が求められるケース以外は、人事部にも相談件数を知らせるだけである。
このほか、保健師に相談ができる窓口として、「EAP(従業員支援プログラム)」がある。人事部の所管だが、匿名で相談が可能で、相談内容も基本的に開示しない。メンタルヘルスにかかわる分野のため、本人の意向を踏まえて適切な対応を行うのが基本だ。
いずれのルートでも、「訴えがあった以上、何かしら問題が発生している」という前提で、必ず会社として対応する。公開はしていないが、それぞれの相談窓口に訴えがあった場合、どのような手続きで調査・対応を進めていくのか、マニュアルを作って社内で共有している。
厳密には定めていないが、受け付けた相談の対応には、目安としてある程度の期限を設けている。何週間も放っておかれると相談者が不安になってしまうからだ。できるだけ早く調査を開始し、その旨を本人にも伝えている。
調査に当たって重要になるのは、客観的な事実認定である。必要な聞取り調査を行い、双方の主張を聞いたうえで、就業規則や法律に触れるような不適切な行動があれば懲戒処分とする。必要に応じて、人事異動で当事者を引き離すこともある。
■予兆であっても上長らが指導を
ハラスメントと認定するまでには至らないが、予兆につながるような不適切な行動があった場合にも、店長や統括店長を含めて当事者への指導・教育を行う。問題が収束後も、しばらくは店長や統括店長が注意深く当事者を見守り、改善に向けてサポートする。
社内のハラスメントに関する相談内容は様ざまだ。最多は「上司への不満」で、全体の3割を占めている。セクハラに関するものは、社会的な理解が進んだこともあってか2%に留まっている。
パワハラ関係は11%だったが、同社の場合、直接的な暴力や暴言のような事例はほとんどない。「若手の店長が親しみを持って接している態度が、相手から威圧的に受け取られる」、「古参の社員やパートにとっては当たり前の慣習が、若手には理解されない」――などの事例が多い。
「重要なのは、管理職の意識。とくに店舗で問題が生じた場合、店長を束ねる統括店長に訴えが行くケースが多く、労務管理の鍵を握る存在だ。一方で、この層は30歳代前半から定年間近の人まで年齢の幅も広いため、世代間ギャップも生じやすい。正しい知識を付けてもらうために教育にも力を入れている」(中島マネジャー)。統括店長に対しては、新任研修時にハラスメント教育を組み込み、統括店長が集まる毎月のミーティングでは、年に数回の頻度で事例の共有と社内ルールの再確認を行う。一般的な事例集ではなく、実際に社内で起こった問題を取り上げることで、当事者意識を持ってもらう狙いだ。このほか、全幹部職層を対象にした会議の場でハラスメントをテーマに講話や情報提供をしている。
こうした取組みを続けた結果、社員が窓口に相談しやすくなった面はあるのではないかと分析している。「問題に蓋をして表に出ない方が良くない」と、相談件数を減らすことだけが目標ではないと考えている。
今後もハラスメントへの意識喚起を続けていく方針だ。中島マネジャーは、「意識を維持していくには、継続性が重要だ。年に1回ハラスメント教育を行うよりも、時間は短くても定期的に考える機会を増やしていきたい。ゆくゆくは管理職層だけでなく、一般社員やパート・アルバイトへの教育機会を設けていければと構想している」と話した。
労働新聞より